インタビュー

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創業代表者インタビュー

30年の臨床経験と20年の開発実績が生み出す胃がん検診の新たなスタンダード

30年の臨床経験と20年の開発実績が生み出す
胃がん検診の新たなスタンダード

エンドルミナル・ソリューションズはどのような会社ですか?

エンドルミナル・ソリューションズはどのような会社か

私たちは、胃がん検診に特化した革新的な内視鏡システムを開発する医療機器ベンチャーです。2025年4月に設立したばかりの若い会社ですが、創業者である私自身はこれまで外科医として30年、医療機器開発者として20年の経験を積んできました。

現在、日本の胃がん検診は大きな転換期を迎えています。50年以上続いてきたバリウム検査から、内視鏡検査への移行が始まっているのです。しかしながら、この移行がスムーズにいかない大きな問題があります。それは、検査に使う内視鏡そのものです。実は現行の内視鏡は精密検査用に開発されたもので、高性能過ぎて大規模な検診には適していません。非常に高額で操作も複雑、1回使う毎に洗浄・消毒・乾燥が必要で、一度に多くの方を対象とする集団検診には向いていないのです。

そこで私たちは、がん検診に特化した世界初のディスポーザブル内視鏡(胃カメラ)を開発しています。現行のどの内視鏡よりも細く(4ミリ)、完全使い捨てで、価格も手頃、操作もシンプル。現在、2,400万人の日本人が受けている胃がん検診を、より安全で効率的なものに変えていきます。

代表の経歴について教えてください

私は1992年に大阪大学医学部を卒業し、消化器外科医として臨床の現場に立ってきました。2001年からは米国コーネル大学で低侵襲外科学の研究に従事し、帰国後は大阪大学で臨床、研究、教育に取り組んできました。

転機となったのは2008年です。世界で初めて経管腔的内視鏡手術(NOTES)による胃腫瘍の切除に成功しました。体表に傷をつけず、軟らかい内視鏡でおなかの手術を行うという画期的な技術でした。この成功を機に、私は医療機器の研究開発に本格的に取り組むようになりました。

2008年に低侵襲診断・治療に必要な革新的医療機器の開発をめざし、大阪大学消化器外科内に研究グループ「ENGINE」を立ち上げました。これは「Endeavour for Next Generation of INterventional Endoscopy」の頭文字で、次世代の低侵襲治療分野を開拓するという決意を表したものです。2012年にはこのグループが発展し、次世代内視鏡治療学共同研究講座として独立。産学連携の一大プラットフォームとなり、13年間で延べ50社以上と共同研究を行い、28製品の上市と160件超の特許出願を実現してきました。

大学での成功があるのに、なぜ起業を?

大学での成功があるのに、なぜ起業を

私は確かに大学で多くの成果を上げてきたと自負しています。若手外科医や大学院生が自由に研究開発に携わり、博士号を取得しながら実用的な医療機器を生み出していく。学会発表や論文発表を通じてエビデンスを学術的に発信しつつ、開発した製品が全国の医療現場に広まっていく。ENGINEは事実上、医療機器に特化したオープンイノベーション型の研究開発複合体であり、いわば大学「内」ベンチャーのような成功事例であると、誇りに思っています。

しかし海外の医療関係者と交流する中で、常に「なぜベンチャーをやらないのか」と問われ続けてきました。欧米では医療機器開発のイノベーションの多くがベンチャー企業から生まれています。一方、日本では大学や大企業中心で、医療機器分野のスタートアップ成功事例はまだまだ少ないのが現状です。私自身、60歳という節目の歳となり、「いつまでも大学に閉じ籠もっているのではなく、これまでの経験と実績を活かして、自身の信ずるものを広く世に問うべき時が来ているのはないか」と思ったのが、今回起業することとなった大きな理由です。

起業に踏み切ったもう一つの大きなきっかけは、深刻化する外科医不足です。外科医療は高度な技術と献身的な姿勢が求められる分野ですが、その価値ややりがいが若い世代に充分には認識されておらず、外科医になろう、という人たちが減っているのです。私は、若い医師たちに、臨床外科医というやりがいのある医業だけでなく、大学内での研究開発や大学発の起業など、多様なオプション、キャリア・パスがあることを示したいのです。

50年変わらなかった検診に実現可能な代替案を提示する

50年変わらなかった検診に
実現可能な代替案を提示する

現在の胃がん検診の課題は何ですか?

現在の胃がん検診の課題

日本では40歳以上の約6,000万人が胃がん検診の対象となり、実際に約2,400万人が受診しています。その約9割がバリウム検査です。しかしこの検査方法は1970年代から50年以上、基本的に変わっていません。

バリウム検査はX線で胃の形を影絵のように映し出す検査です。そのため、小さな病変や平坦な病変は見つけにくいという限界があります。また、検査時にはX線を連続的に照射するため、放射線被曝の問題も指摘されています。さらに、重金属化合物である硫酸バリウムは検査後にしっかり排出しないと体内で固まってトラブルになることが知られています。

現在、バリウム検診の受診者は年々減少しており、これからのがん検診を担う柱として、内視鏡検査の意義が急速に高まっているのです。

なぜ既存の内視鏡では解決できないのですか?

なぜ既存の内視鏡では解決できないのか

現在の内視鏡は精密検査用のツールとして発展してきました。結果、1本数百万円、超高解像度、特殊光観察機能など、様々な機能が搭載されるようになりました(私はこれを「モンスター内視鏡」と呼んでいます)。しかし、検診にはこれら機能のほとんどは必要ありません。検診の目的は「疑わしい病変をきちんとピックアップする」ことであって、「癌の精密診断をつける」ことではないからです。

さらに大きな問題は処理能力です。内視鏡は使用後に洗浄・消毒・乾燥が必要で、このダウンタイムが1日の検査数を制限します。また、高額な設備投資が必要なため、検診を行える医療機関が限られてしまいます。上述のごとく高機能なため、取り扱いは医師に限られます。つまり、現在の内視鏡は「個別の精密検査には最適だが、大規模検診(集検)には不向き」と言えるのです。

SNSやYoutubeなど、巷では「バリウムなんて意味がない、内視鏡にすべきだ」という声が聞かれるようになりました。しかし、批判だけして実現可能な代替案を示さないのは無責任です。私たちは批判ではなく、実際に使える代替案を提供していきます。

世界最細径が実現する検診に特化した革新的ソリューション

世界最細径が実現する
検診に特化した革新的ソリューション

開発中のディスポーザブル内視鏡の特徴は?

開発中のディスポーザブル内視鏡の特徴

私たちが開発しているディスポーザブル内視鏡(胃カメラ)の最大の特徴は、検診に特化した設計です。まず、世界最細径を実現しました。経鼻挿入に最適化された細さ(4ミリ)で、鼻から無理なく挿入できる設計です。経鼻内視鏡は口から入れる内視鏡に比べて嘔吐反射が少なく、受診者の苦痛を大幅に軽減できます。

そして、完全使い捨てであることも大きな特徴です。現在の胃カメラ検診における個人負担額の範囲内に収まる価格設定をめざしており、完全使い捨てにすることで、受診者の経済的負担を増やすことなく、より安全で効率的な検診を実現します。洗浄・消毒・乾燥の工程が不要となるため、ダウンタイムがゼロとなります。つまり、連続して何人でも検査できるようになるのです。同時に、これらの工程のコストもゼロとなります。

操作性もシンプルにしました。従来の内視鏡は上下左右の4方向操作ですが、私たちの製品は上下のみです。しかし、検診に必要な観察は十分可能であることを実証しています。また、大型の内視鏡タワーではなくタブレット状の端末に接続するシステムとし、LED光源を先端に配置することで光ファイバーや光源も不要にしました。

我々の内視鏡は、現行内視鏡で行われている「消毒」よりランクの高い「滅菌」済。個包装で提供されます。感染リスクを限りなくゼロにするために、むしろ高品位とした「こだわり仕様」です。

これらは現行の内視鏡を単純化した、ダウングレードしたのではなく、がん検診に必要な機能をゼロから積み上げる「ゼロベース開発」という手法で実現しました。さらに、最新の人工知能(AI)技術を活用した「がん検診に特化した診断支援システム」も同時に開発しています。

その「ゼロベース開発」の発想はどこから?

「ゼロベース開発」というのは、従来の内視鏡をダウングレードするのではなく、検診に必要な機能だけをゼロから積み上げていく開発手法です。私は、この発想を、2014年からインドの全インド医科大学(All India Institute of Medical Sciences:AIIMS)と行ってきた共同開発事業から学びました。

インドでは電力供給が不安定で、清潔な水も限られ、大気汚染で塵が機器に付着します。そんな環境でも使える医療機器を開発するには、先進国の常識を捨てる必要がありました。例えば、心電図ならコンセントからの電源供給に頼らずバッテリー駆動にし、また文字表記を言語に依存しないピクトグラムに変更する等の工夫が必要となります。

この経験から学んだのは、先進国の医療機器開発の多くが「あったら便利」という付加価値(ウォンツ)を追求するあまり、「本当に必要な機能」(ニーズ)から離れてしまっているということです。新興国視点でゼロから開発した製品は、実は先進国でもおおきな価値を持ちます。災害時や僻地医療など、リソースが限られる環境は先進国にも存在するからです。

AI診断支援システムの詳細を教えてください

AI診断支援システムの詳細

ハードウェアはローテクの最適化、ソフトウェアは最先端技術という組み合わせです。我々のAI診断システムは、がん検診に特化した形で設計・開発を行っていきます。

現在医療現場で使われている診断補助AIは、現行の高性能内視鏡で撮影された高解像度画像を教師データとして開発されてきました。私たちは、検診用内視鏡の「より解像度の低い」画像を教師データとして新たにAIを学習させ、疑わしい病変を確実にピックアップできる新しいソフトウェアを開発します。検診リポートも自動作成できるものをめざしています。

さらに、ディスポーザブル内視鏡ならではの革新的なシステムとして、1本1本の内視鏡に固有のIDを付与しています。1本の内視鏡は1人の受診者にしか使用しないため、そのIDと受診者のデータを紐付けることで、誰がいつ、どこで、どの内視鏡で検診を受けたかが完全に追跡可能となります。この確実なトレーサビリティにより、受診者への結果通知、精密検査が必要な場合の情報提供、検診施設から自治体への報告、次回検診の案内、等も間違いなく自動化できます。将来的には、蓄積されたビッグデータを活用した各種疫学研究や、検診精度の向上にも貢献できると考えています。

2,400万人の健康を守る持続可能な社会インフラの構築へ

2,400万人の健康を守る
持続可能な社会インフラの構築へ

ビジネスモデルの戦略は?

ビジネスモデルの戦略

私たちの最優先事項は、より多くの方に安心して胃がん検診を受けていただくことです。そのため、医療機関が導入しやすく、受診者の負担も少ない価格設定を追求しています。

こうした価格設定により、医療機関は大規模な初期投資なしで導入でき、検診受診者の自己負担額も現実的な範囲に収まります。通常の医療機器メーカーとは異なり、私たちは普及を最優先に考え、適正な利益率での事業展開を計画しています。

日本の2,400万人という検診対象者がいれば、持続可能な事業として成立します。「この世の中からバリウムによる胃がん検診をなくしたい」という究極の目標のもと、社会的価値の創出を重視した戦略を採用しています。

韓国政府は既に内視鏡を用いたがん検診を推奨しており、受診率70%、1,000万人以上が対象となる大きなボリュームです。将来的には、日本発の検診システムとして、韓国だけでなくアジア全体の内視鏡がん検診の普及に貢献したいと思っています。

また、アフリカ諸国をはじめとする低中所得国では、内視鏡はまったくと言っていいほど普及していません。これらの国では、我々が開発する内視鏡こそが、First Endoscopy(はじめての内視鏡)となり、検診ではなく実際の医療目的で普及する可能性を秘めていると考えています。

実用化までのロードマップは?

現在、提携メーカーで第1試作を製造中です。その後1年程をかけて改良を重ねていきます。薬機法承認申請のプロセスを経て、2029年から2030年前半の市場投入をめざしています。

まず導入を進めたいのは公的ながん検診センターです。日本を代表するがん検診機関である宮城県対がん協会がん検診センターの加藤勝章所長、内視鏡によるがん検診の専門家である埼玉医科大学消化器内科の岡政志教授にメディカル・アドバイザーとして参画していただいており、開発品のパフォーマンス評価、学術的な裏づけにご協力をお願いしています。

あわせて、初期投資が困難な中小クリニックにも導入しやすいビジネスモデルを構築していき、内視鏡がん検診実施施設の裾野を広げていきたいと考えています。

臓器の内側(エンドルミナル)から解決策(ソリューション)を生み出す

臓器の内側(エンドルミナル)から
解決策(ソリューション)を生み出す

HPをご覧の皆様へのメッセージをお願いします

HPをご覧の皆様へのメッセージ

私たちが開発しているのは、単なる医療機器ではありません。日本の胃がん検診システムそのものを変革する社会インフラです。2,400万人という明確な市場があり、バリウムから内視鏡への移行という大きな流れも始まっています。

大学での28製品の上市経験と160件超の特許出願実績が示すように、私たちには医療機器を確実に市場投入する能力があります。さらに新興国での開発経験により、真のニーズを見極め、適正価格で提供するノウハウも培ってきました。

医療の世界では批判は簡単ですが、実行可能な代替案を示し、それを実現することは容易ではありません。私たちは批判ではなく、ソリューションを提供します。「臓器の内側(エンドルミナル)から解決策(ソリューション)を生み出す」それが社名に込めた想いです。

バリウム検査が果たしてきた歴史的役割は認めつつ、新しい時代の検診システムを構築する。それが私たちの使命です。日本の医療を内側から変革し、世界に展開していく。この挑戦にぜひご賛同いただければ幸いです。

外科医の未来に、新たな選択肢を

外科医の未来に、新たな選択肢を
臨床・研究・起業 ― 多様なキャリアパスが外科の魅力を高める

迫りくる外科医不足という危機

迫りくる外科医不足という危機

日本の外科医療は今、深刻な岐路に立っています。近い将来、外科医が大幅に不足することが予測されており、このままでは日本の外科医療体制そのものが崩壊しかねません。

外科医療は高度な専門性と強い使命感が求められる分野ですが、その社会的価値が十分に評価されていないのが現状です。長時間の手術、緊急対応、そして継続的な技術研鑽が必要な外科の特性に対し、それに見合った環境整備が追いついていません。若い医師たちが様々な診療科の中から進路を選ぶ際、外科の持つ本質的な魅力や可能性が十分に伝わっていないことも課題です。

しかし、外科医がいなければ、がんの手術も、救急医療も成り立ちません。この構造的な問題を解決するには、外科という分野そのものの魅力を高め、多様な働き方を提示する必要があります。それが、私がエンドルミナル・ソリューションズ株式会社を設立したもうひとつの理由でもあるのです。

外科医だからこそできる、医療機器開発という道

外科医だからこそできる、医療機器開発という道

当社の創業者代表・中島清一は、外科医として30年、そのうち20年は医療機器開発に携わってきました。この経験から当社が確信を持って言えることは、外科医こそが革新的な医療機器を生み出せる、ということです。

なぜなら、医療機器のニーズは手術室から生まれるからです。実際に手を動かし、患者さんと向き合い、現場の課題を肌で感じている外科医だからこそ、真に必要な医療機器が何かを理解できます。現場の「もっとこうだったら良いのに」という想いが、すべての出発点なのです。

中島が大阪大学で立ち上げたプロジェクト「ENGINE」では、13年間で50社以上と共同研究を行い、28製品を市場に送り出しました。この過程で多くの若手外科医が研究開発に参画し、博士号を取得しながら実用的な医療機器を生み出してきました。彼らは手術の腕を磨きながら、同時に開発者としてのスキルも身につけ、学会発表や論文執筆を通じて学術的な評価も得てきたのです。

起業という新たな選択肢

起業という新たな選択肢

しかし、大学での開発には限界もあります。真に革新的で、リスクの大きなテーマには取り組みづらい。そこで当社は、もう一つの選択肢を示すために設立されました。

海外では、医療機器開発のイノベーションの多くがベンチャー企業から生まれています。医師が起業し、自らのアイデアを形にし、社会実装まで責任を持つ。これは外科医にとって、手術で患者さんを救うのとはまた違った形で社会に貢献する道です。

起業は確かにリスクを伴います。しかし、外科医として培った判断力、責任感、そして何より「患者さんのために」という使命感は、起業家としても大きな強みになります。医療現場を知り尽くした外科医だからこそ、本当に必要とされる製品を生み出せるのです。

多様性が外科の魅力を高める

多様性が外科の魅力を高める

当社が提案したいのは、「外科医か、それ以外か」という二者択一ではありません。臨床も、研究開発も、起業も、すべてが外科医のキャリアの一部となり得るということです。

朝は手術室で患者さんを救い、午後は新しい医療機器の開発に取り組み、夕方には若手医師を指導する。あるいは、数年間臨床に専念した後、培った経験を活かして医療機器開発者に転身する。あるいは、自らのアイデアを実現するために起業する…こうした多様な働き方が当たり前になれば、外科という分野はもっと魅力的になるはずです。

実際、プロジェクト「ENGINE」で育った外科医たちの中には、大学で研究を続ける者、企業と医療機器開発に携わる者、そして自ら起業する者も現れ始めています。彼らは外科医としてのアイデンティティを保ちながら、それぞれの道で活躍しているのです。

次世代へのメッセージ

次世代へのメッセージ

若い医師の皆さん、特に外科を志す、あるいは外科から離れようとしている皆さんに当社から伝えたいのは、外科医であることは、無限の可能性を秘めた素晴らしいキャリアだということです。

手術で直接命を救うことも、新しい医療機器を開発して世界中の患者さんを救うことも、起業して医療システムそのものを変革することも、すべて外科医だからこそできることです。外科医の道は決して平坦ではありませんが、その分、社会に与えるインパクトも、得られる達成感も格別です。

エンドルミナル・ソリューションズ株式会社の成功は、単に一企業の成功ではありません。外科医の新しい働き方、新しい価値創造の形を社会に示すことができる、という意味を持つのです。当社の挑戦が、次世代の外科医たちに勇気を与え、外科という分野の未来を明るくすることを信じています。

外科医の働き方を多様に。それが、日本の医療の未来を支える鍵となるのです。